院長ヴォイス

妊娠と関節リウマチ治療について

 ご質問を頂きましたので、妊娠を希望する場合の関節リウマチ治療についてお話します。
関節リウマチ治療には様々な薬剤を使用します。催奇形性(胎児に影響し、奇形を生じさせる性質や作用)や胎児毒性(胎児の発育や機能に悪い影響を与える作用)が問題となる薬剤が多く、先天異常や流産のリスクが高い薬剤もあります。日本リウマチ学会の提言を簡単にご紹介いたします。

 抗リウマチ薬のうち、最もよく使われているメトトレキサート(リウマトレックス®)は欧州と北米の大規模な研究で催奇形性が高いことが報告されているため、妊婦には投与できません。妊活前に中止し、中止後1月経周期を開ける必要があります。レフルノミド(アラバ®)やJAK阻害薬(ゼルヤンツ®、オルミエント®、スマイラフ®、リンヴォック®、ジセレカ®)、イグラチモド(ケアラム®)などは動物実験で催奇形性が示されいます。人間での十分なデータはありませんが、妊婦には使用しないことが推奨されています。サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®)はこれまでの研究で催奇形性を疑う結果は出ていません。ブシラミン(リマチル®)は論文化された症例報告はありませんが、発売からの長い年月の中で催奇形性を疑う報告はありません。これらの薬剤はリスクと得られる効果を天秤にかけて、「状況によっては使用できる」とされています。タクロリムス(プログラフ®)は動物実験で催奇形性が報告されているため、妊婦には禁忌とされていましたが、多数の移植患者の妊娠報告が集まり、2018年に「有益であれば、投与可能」との判断に変更されました。

 TNF阻害薬は大規模な研究が複数行われており、先天大奇形のリスクは上昇しないことが報告されています。そのため、TNF阻害薬は「状況により妊婦に使用することが可能」とされています。インフリキシマブ(レミケード®)とアダリムマブ(ヒュミラ®)は母体よりも胎児で濃度が高くなることが報告されていますので、妊娠末期まで継続された場合には出産後の児への生ワクチン接種に注意が必要です。エタネルセプト(エンブレル®)とセルトリズマブペゴル(シムジア®)は胎児へ殆ど移行しないことが示されていますので、より安全性が高いとされています。トシリズマブ(アクテムラ®、ケブザラ®)、アバタセプト(オレンシア®)は先天大奇形のリスクは上昇しないことが報告されていますので、状況により妊婦への投与が容認できるとされています。

 一般的に、妊娠中は関節リウマチの症状が軽くなる方が多いです。妊娠を希望する場合は、胎児への安全性が高い薬剤を選択し、妊娠後は症状に応じて、減薬中止を検討するという方針になります。また、男性リウマチ患者のパートナーが妊娠を望む場合に関しては、薬の影響は少ないと考えられています。関節リウマチ治療を受けているのが男性の場合、精子に影響が現れる可能性はありますが、影響を受けた精子では受精や着床が困難になり、妊娠が成立しないと考えられています。そのため、特段の配慮は不要と判断されています。

 関節リウマチの治療中であっても妊娠は可能ですが、妊娠を希望される場合は、早めに主治医に相談してください。安全性の高い薬剤を使用して寛解状態を維持しながら妊活することをお勧めいたします。また、健康な方でも流産は15%に、先天異常は3%にみられます。関節リウマチだけが流産や先天異常の原因ではないこともご理解下さい。

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